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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)5479号 判決 1984年6月29日

原告

豊商事株式会社

右代表者

永野一男

右訴訟代理人

角谷哲夫

被告

浜田万亀夫

主文

一  被告は、原告に対し、金四五〇万円及びこれに対する昭和五八年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金六八五万〇八五三円及びこれに対する昭和五八年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、金地金の販売等を業とする株式会社であり、訴外浜田南海男(以下「南海男」という。)は、昭和五六年四月ころから原告の営業部員として勤務し、金地金の販売、集金等の業務に従事していた。

2  被告は、昭和五六年四月一日、原告に対し、南海男が原告従業員として故意又は重大な過失により原告に損害を与えた場合は、南海男と連帯してその賠償の責に任ずる旨の身元保証(以下「本件身元保証契約」という。)をした。

3  南海男は、原告の顧客である訴外石橋里美から昭和五八年五月二八日金三五万二〇六五円、訴外隅井吉彦から同月末日ころ金三四万六八一五円、訴外今井英之から同年六月二日金六四四万六四〇〇円を金地金の代金としてそれぞれ原告のために集金しながら、いずれもこれを原告に入金せず、右各集金日に着服横領し、原告に右合計金七一四万五二八〇円の損害を与えた。

4  よつて、原告は、被告に対し、本件身元保証契約に基づき、右第3項の損害金合計金七一四万五二八〇円のうち、南海男から弁済を受けた金二九万四四二七円を差し引いた金六八五万〇八五三円及びこれに対する不法行為をなした後である昭和五八年六月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が金地金の販売等を業とする株式会社であることは知らない。その余の事実は認める。

2  同2の事実のうち、昭和五六年四月一日被告との間で本件身元保証契約が成立したことは認めるが、その保証期間は一年間限りのものであつた。

3  同3の事実は知らない。

第三  証拠<省略>

理由

<前略>

四そこで、南海男の不法行為により被告が原告に対して負うべき損害賠償額について検討する。

1  先ず、<証拠>によれば、南海男は、昭和五六年四月ころから、それまで勤めていたみます建設をやめて、金地金の販売等を業とする原告に勤務するようになり、金地金の販売及び集金業務に従事しているうち、昭和五八年五月二八日から同年六月二日までの間前後三回に亘り、原告の顧客から集金した金地金代金合計金七一四万五二八〇円を自己のために着服横領したこと、しかしながら、原告では、これより先の昭和五七年六月ころにも営業部員による同種の横領行為が発覚していたこと、なお、原告の集金方法は、顧客から電話で金地金取引の注文を受けてその都度、営業部員が集金に行くというものであること、以上の事実が認められる。このような事実に照らして考えると南海男が右横領行為を行つた期間は短かいものの、原告としては、以前にも同じ営業部員の同種事件があつたのであるから、再び営業部員による着服横領行為の再発を防止すべく迅速適切な措置を講ずべきであつたところ、原告がかかる措置を取つた形跡は窺われないのみならず、そもそも途中入社後約二年を経過したにすぎない南海男に多額の集金を任せた点にも問題がないわけではないのであつて、原告の南海男に対する監督に不十分な点があつたことは否定できない。

2  次に、<証拠>によれば、被告が本件身元保証契約をするに至つた動機は、南海男から身元保証の依頼を受けた当時、被告としては商売を始めたばかりで金銭的にも余裕がなく、できれば保証等は避けたいという気持ちが強かつたが、実兄である南海男が就職のため是非とも必要ということであつたので、もつぱら兄弟間の情宜により、止むを得ずなしたものでありさらに被告は、南海男が原告において集金業務に従事することについては少くとも契約当時知らなかつたことが認められるから、将来、南海男の横領行為により原告に対して多額の責任を負担することにはなるとは夢想だにせず、軽い気持ちで身元保証に応じたものであると推認できる。

3  さらに、<証拠>によれば、原告自身、被告との本件身元保証契約に当つては、南海男に誓約保証書と題する身元保証用紙(甲第一号証)を交付して、被告の印をもらつてくるように指示しただけであることが認められ、特に身元保証人の信用や資力を調査確認したり、直接に身元保証人の意思を確認したりしたというような事情は窺われない。従つて、原告としては、身元保証をさ程重視していたわけではなく、いわば定型的に身元保証書を徴していたにすぎないのではないかとの疑念も払拭しえない。

4  しかして、右に述べた原告の南海男に対する監督上の落度や、被告が本件身元保証契約を締結するに至つた経緯、その他一切の事情を考慮すれば、被告が原告に対して負担すべき賠償額は、南海男が原告に与えた損害金七一四万五二八〇円から南海男がすでに弁済した金二九万四四二七円を差し引いた金六八五万〇八五三円のうち、金四五〇万円と定めるのが相当である。<以下、省略>

(久末洋三 三浦潤 多見谷寿郎)

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